むなつきはっちょう

個人的徒然気ままブログ

『ひとりりしり』 9.救世主吉幾三

 

ようやく帰ることになり再び笑えないドライブの始まり
聞いてもいないのにおっシーはやたらと自分のことを話したがり
前に民宿に泊まっていった女の人の話しをし始めた
その女性はサバサバとしていて
ハツラツな感じの女性ですぐにおっシーと仲良くなったようだった
ある時おっシーが用があってその女性の部屋を訪ねると
ノックして入っていいかいと聞いたにもかかわらず女性は下着姿だったらしく
おっシーは一応自分も男なのだがみたいなことを言ったら
別に気にしてないからいいでしょと言われたらしく
自分が男性的能力を失った老いぼれと
認識されていることにとても腹を立てたということだった
そして自分がいかにまだその気があるかということを語り始めた
率直に言って私はこのとき 老人の性欲ほど気持ち悪いものが
他にあるだろうかと思ってしまった
それからどこだったか忘れたが借りに栃木だということにしておこう
栃木の女は最悪だという話が始まった
栃木の女全員を知っているのかと聞きたくなったが黙っていた
なぜ最悪なのかというとこれは東京に住むおっシーの友達の話しではあるらしいが
その男性には栃木に住んでいる不倫相手の女性がおり、
彼女と会う約束をしていた日に男性の母親が亡くなり
会うことが出来なくなった
そのことを彼女に告げると
彼女は猛烈に怒りそしてその男性を求めわざわざ葬式にやってきたという
信じられないでしょと怒りながら話すおっシーを見て私は
ああこれはおっシー自身の話だ
と感づいてしまった
一度そう思うともうその考えは取り消すことができなくなり
不信感と嫌悪感
いよいよ耐えられなくなってきた
何かをほのめかすような話し方が不快指数200%を超えダム崩壊
私は〝自分をよく見せようマニュアル″の第1項である
笑顔で素直でものわかりの良い偽善的欺瞞に満ちた優等生的態度をやめ
顔から一切の笑顔を消し、返事やあいづちを愛想のないものへと変えた

そして色っぽい雰囲気のジャズをBGMにかけだしたときはもう吐き気がして
速攻「他にCDないですか?」といって勝手にCDをあさり
吉幾三の「オラ東京さいぐだ」をかけた
ピャ~ラピャっピャピャ~ラピャっピャピャラピャラピャラピャ~♪
素晴らしき間の抜け感!
ありがたき吉幾三の歌声によって気持ち悪い雰囲気をぶち壊すことに成功!
必死の可哀想な努力もあり無事何事もなく民宿に到着
お昼まで休んで起きたらお昼一緒に食べようねってなんだか仲良し気分のおッシーに
朝結構いっぱい食べたんでお腹空かないと思うんでどうですかねえ 
多分昼過ぎても寝てると思います私
みたいな切り返しでヒラリかわし部屋へ入った
ドアをしめて畳に座り込んで
そしてらずっと張り詰めていた強がっていた気持ちがふっと途切れて
涙が溢れて流れて辛くなってきた
部屋に入ってもこの建物にいるのは私とあの人とオーナーしかいない
外側から鍵が開けられないとも限らない
怖くて怖くて怖くて
誰かに電話しようと思った
とりあえず誰か安心できる人の声が聞きたいと思った
でも心配かけてはいけないと思ったし
電話をかけても誰か来れるわけじゃないし
電話をかけていることを聞かれるのも嫌だし
静かに泣いて決心

いますぐ民宿を出なければ!
おらこんな宿嫌だー!!!

幸い
まだ雨は降っていたものの天気は回復しつつあった

荷造り選手権があったら上位に食い込むだろうと思われるくらい
荷造りの速いわたくしは決断してからすぐに荷物をまとめ
なんといって民宿を出ていこうか考えた
おッシーは「天気も良くならないし、いっそのことテントをたたんで
ずっと民宿にいたらいいよ」と言っていたし
明日2人お客さんが来るからその次の日に
みんなで山をのぼりに行こうという約束もしてしまった
なんと言ってすべてを断るか

 

お昼頃部屋を出て荷物と一緒にくつろぎスペースへ降りた
それに気づいたおっシーも起きてきた
おっシーに何か言われる前に急いで
「なんだか天気が良くなってきたので私もどりますね」と伝えた
おっシーは私がテントをたたみに行くと思ったらしく
「あ!テント取りに行く?いま車出すね」と言った
ああそうなっちゃいます?と思って焦ったけれどすかさず言った
「いやそうじゃなくて 私やっぱりテントに帰ります 
天気も良くなってきたのでもう今日からは寝られると思うので」
おッシーは焦りだした
「でもまだ雨ふってるしここにいたらいいのに!」
う~ん 
「自分は何しにここに来たのか思い出したんです 
 ここにいたら私は頼ってばかりで楽をしていることになります 
 私は自分で張ったテントでキャンプをするために来たんです」
するとおッシーは意外とあっさり納得してくれた
「そうか そうだよなーよしじゃあご飯食べたら送っていくよ」
一刻も早くここから立ち去りたいおッシーと関わり合いになりたくない私は
「いえ!今出るんです!そして私は自分で歩いていかなければダメなんです」
と言って立ち上がって玄関を出ようとした
そしたらおっシーはちょっと待ってといって台所の方へ向かった
そして袋に入った何かを持ってきてそれをくれた
それはあんドーナツで
昨日の夕食の前にお腹がすいている私に出してくれて
私がとってもおいしい!と言いいながら喜んで食べたものだった
今日またお店で買ってきたらしい
2つもくれたので悪いと思い遠慮したが
あんなにおいしいといってくれたのだから是非食べなさいということでありがたく頂戴した
もっとどうでもいい別れ方でよかったのに変に後味のいい別れ方になり
こんなに急いで出て行く私は人の親切を仇で返すような
最低な人間のような感じもして申し訳なく思ったけれど
悪気はなくとも彼のせいで素晴らしい思い出がぶち壊しになったので
ドーナツぐらいであなたの罪はなくなりませんよー
なんてちょっとこころのなかで罵ってみたりして
だけれどやっぱりまぎれもない事実として
このおじーさんが声をかけてくれたおかげで
いろいろな困難から解放されることになったし
しかもタダで泊めてくれたり夕食をいただいたりして良くしてもらった
民宿という商売をしている以上はそのような振る舞いは普通ありえないと思う
金銭の関係ないそういった優しさを頂けたのは稀有なことで
そのことには私は本当に感謝している
私以外にも今までこの民宿に宿泊しおじーさんのお世話になった方々からの
お手紙や笑顔の写真などがくつろぎスペースにもたくさん飾ってあった
ここは本来はとても居心地のよい民宿なのだろうと思う
残念ながら今回はこういった結末になってしまった
私はこういった面倒が旅行の間に起こりうることをひどく苛立たしく思う
私が男だったのならばこんなことにはならなかったかもしれない
もちろん女でよかったって思うラッキーもたくさんあるけどね

これはしょうがないことだ
そしてまたキャンプ場にむかって歩き出した

 

俺ら東京さ行ぐだ〜吉幾三 - YouTube