むなつきはっちょう

個人的徒然気ままブログ

かわいいひと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無意識のうちにわたくしは、

創造性がある職業に独占するものと考えていたのであった。

しかしこれらの予想は、多くの私の被験者によって裏切られた。

例えば無教育で貧しくて

終日家事に追いまわされている母親である一夫人を例にすると

彼女はこれらの慣例的な意味での創造的なことは何もしていなかった。

 

にもかかわらず、

素晴らしい料理人であり

母親であり、妻であり、主婦なのである。

わずかのお金でその家はともかくつねに小奇麗であった。

 

彼女のつくる食事はご馳走である。

彼女のリンネル、銀食器、ガラス食器、せともの、

家具に対する好みは、間違いがない

 

彼女はすべてこれらの領域で、独創的で斬新で、器用で

思いもよらないもので、発明的であった。

 

一流のスープは二流の絵画よりも創造的であり

また一般に、料理や育児や家事が創造的でありうる一方

詩が必ずしも創造的でなければならないというわけではなく

非創造的でもあり得る

-----------------------------------------------------------------マスロー『完全なる人間』

 

 

 

女は男たちのあいだに分散して生活し

他の女たちとのつながりより

住居や仕事、経済的利害、社会的地位などによる特定の男性(父や夫)

とのつながりのほうが密接である。

 

ブルジョアの女はプロレタリアの女とではなく

ブルジョアの男と連帯し

白人の女は黒人の女ではなく白人の男と連帯している。

 

プロレタリアが支配階級を虐殺しようと考えることはあり得ても

たとえ夢の中であろうとも女が男を皆殺しにすることはあり得ない。

 

主君である男の家来でいれば、

男は女を物質的に保護し

その存在の意味づけまでも引き受けてくれるはずだ。

 

こうして女は経済的な危険だけでなく

自らの目的を独力で見つけなくてはならない自由な存在につきものの

形而上学的な危険をも回避する。

 

実際、どんな人間にもそれぞれ自分を主体として

主張したいという倫理的な要求と並んで

自由を逃れてモノになりたいという気持ちがある。

しかしこれは不幸な道そして楽な道である。

不安や緊張を避けることができるが、

受動的で疎外され自分を見失った人間は

超越への道を断たれあらゆる価値をだましとられて

他人の意志の餌食になってしまう。

 

女には男性的な活動が禁止されていることで満たされない。

いろいろと用事はこなしてるがなにもしていない。

 

この世界を再び捉え直したいと思うなら

まず絶対的な孤独の中でそこから

浮かび上がらなければならない。

女にまず欠けているのは苦悩や自尊心の中にあって

見捨てられ独りになった孤独と超越の修練を積むことである。

 

化粧や服装から尊敬の念を抱かれるようにしなくてはならないという

気遣い、義務的な無数の絆が精神を大地にふたたび縛り付けるならば

精神の飛躍は砕かれる。

 

 

自分の生を自分で引き受ける必要を女にけっして教えない。

それなら女が保護や愛や援助や他人の指導をあてにする方向に

喜んで行くのは当然である。

人は女をだましてきた。

実際には男にとっては女は1つの気晴らし、快楽、つきあい、

非本質的な財産にすぎない。

 

ふつう男は会社の正員だから、

彼にとって時間は金、名声、快楽になる積極的な富なのである。

これに対し暇で退屈している女にとって

時間はどうにかしてつぶさないといけない重荷である。

女にとって男の存在は純益

しかし男の場は性的な利益

男にとって2人の時間は女がくれる贈り物ではなく

1つの負担と考えている。

やましさと

自分が恵まれた側にいることによって我慢しようとしている。

 

自分自身の存在を自分から引き受けることができるには

経済的自立が不可欠である。

  

 

--------------------------------------------------------------------ボーヴォワール『第二の性』

 

 

 

あんたがあんたのバラの花を、とても大切に思っているのはね

そのバラの花のために時間を無駄にしたからだよ。

 

 

----------------------------------------------------------サンテグジュペリ『星の王子様』

 

 

 

そもそも無能力とはなんであるのか。

能力が「無い」のではなく、

その社会に「適応」しなかっただけではないのか。

 

 

必ずしも心の「平安」だけが人生の終局的な目的ではないのではないだろうか
幸福であることと、幸福だとおもうことはちがう

 

 

---------------------------沢木耕太郎『人の砂漠 棄てられた女たちのユートピア』

 

 

でも私淋しいのよ。

ものすごく淋しいの。

私だってあなたには悪いと思うわよ。

何も与えないでいろんなこと要求ばかりして。

好き放題言ったり、呼び出したり、ひっぱりまわしたり。

でもね、私がそういうことのできる相手ってあなたしかいないのよ。

これまでの20年間の人生で、私ただの一度もわがままきいてもらったことないのよ。

お父さんもお母さんも全然とりあってくれなかったし、

彼だってそういうタイプじゃないのよ。

私がわがまま言うと起こるの。

そして喧嘩になるの。

だからこういうのってあなたにしか言えないのよ。

そして私今本当に疲れてて参ってて

誰かに可愛いとかきれいだとか言われながら眠りたいの。

ただそれだけなの。

目が覚めたらすっかり元気になって、

二度とこんな身勝手なことあなたに要求しないから。

絶対。すごく良い子にしてるから。

 

 

 


今あなたがコーラを買いに行ってて、

そのあいだにこの手紙を書いています。

ベンチの隣りに座っている人に向って手紙を書くなんて私としてもはじめてのことです。

でもそうでもしないことには私の言わんとすることは

あなたに伝わりそうもありませんから。

だって私が何言ったってほとんど聞いてないんだもの。そうでしょ?
ねえ、知ってますか?

あなたは今日私にすごくひどいことしたのよ。

あなたは私の髪型が変っていたことにすら気づかなかったでしょう?

私少しずつ苦労して髪をのばして

やっと先週の終りになんとか女の子らしい髪型に変えることができたのよ。

あなたそれにすら気がつかなかったでしょう?

なかなか可愛くきまったから久しぶりに会って驚かそうと思ったのに、

気がつきもしないなんて、それはあんまりじゃないですか?

どうせあなた私がどんな服着てたかも思いだせないんじゃないかしら。

私だって女の子よ。いくら考え事しているからといっても、

少しくらいきちんと私のこと見てくれたっていいでしょう。

たったひとこと『その髪、可愛いね』とでも言ってくれれば、

そのあと何してたってどれだけ考えごとしてたって、

私あなたのこと許したのに。
だから今あなたに嘘をつきます。

お姉さんと銀座で待ちあわせているなんて嘘です。

私は今日あなたの家に泊るつもりでパジャマまで持ってきたんです。

そう、私のバッグの中にはパジャマと歯ブラシが入っているのです。

ははは、馬鹿みたい。だってあなたは家においでよとも誘ってくれないんだもの。

でもまあいいや、

あなたは私のことなんかどうでもよくて一人になりたがってるみたいだから

一人にしてあげます。一生懸命いろんなことを心ゆくまで考えていなさい。

でも私はあなたに対してまるっきり腹を立ててるというわけではありません。

私はただただ淋しいのです。

だってあなたは私にいろいろ親切にしてくれたのに

私はあなたにしてあげられることは何もないみたいだからです。

あなたはいつも自分の世界に閉じこもっていて、

私が、こんこん、ワタナベ君、こんこんとノックしてもちょっと目を上げるだけで、

またすぐもとに戻ってしまうみたいです。
今コーラを持ってあなたが戻ってきました。

考えごとしながら歩いているみたいで、

転べばいいのにと私は思っていたのに転びませんでした。

あなたは今隣りに座ってごくごくとコーラを飲んでいます。

コーラを買って戻ってきたときに『あれ、髪型変ったんだね』

と気がついてくれるかなと思って期待していたのですが駄目でした。

もし気がついてくれたらこんな手紙びりびりと破って

『ねえ、あなたのところに行きましょう。おいしい晩ごはん作ってあげる。

それから仲良く一緒に寝ましょう』って言えたのに。

でもあなたは鉄板みたいに無神経です。

さよなら。

P.S.
この次教室で会っても話しかけないで下さい」

 

 

 

------------------------------------------------------------村上春樹ノルウェイの森

 

 

  

 

 

私は

ー略ー

彼女と二人きりの生活であったし、

彼女も私も同じ様な造形美術家なので、

時間の使用について中々むつかしいやりくりが必要であった。

互いにその仕事に熱中すれば一日中二人とも食事が出来ず、

掃除もできず、用事も足せず、一切の生活が停頓してしまう。

そういう日々もかなり重なり、

結局は女性である彼女の方が家庭内の雑事を処理せねばならず、

おまけに私が昼間彫刻の仕事をすれば、

夜は食事の暇も惜しく原稿を書くというような事が多くなるにつれて、

ますます彼女の絵画勉強の時間が食われる事になるのであった。

ー略ー

彼女はどんな事があっても私の仕事の時間を減らすまいとし、

私の彫刻をかばい、私を雑用から防ごうと懸命に努力をした。

 

 

 

 

彼女がついに精神の破綻を来すに至ったさらに大きな原因は

何といってもその猛烈な芸術精進と、

私への純粋な愛に基く日常生活の営みとの間に起る

矛盾撞着の悩みであったであろう。

 

 

 

----------------------------------------------------高村光太郎智恵子抄 智恵子の半生』

 

 

 

こんな所へ来て、こっそり髪をつくってもらうなんて、

すごく汚らしい一羽の雌鶏みたいな気さえして来て、

つくづくいまは後悔した。

私たち、こんなところへ来るなんて、

自分自身を軽蔑していることだと思った。

お寺さんは、大はしゃぎ。

「このまま、見合いに行こうかしら」なぞと乱暴なこと言い出して、

そのうちに、なんだかお寺さんご自身、見合いに、

ほんとうに行くことにきまってしまったような錯覚を起したらしく、

 「こんな髪には、どんな色の花をしたらいいの?」とか、

「和服のときには、帯は、どんなのがいいの?」なんて、本気にやり出す。

 ほんとに、何も考えない可愛らしいひと。

「どなたと見合いなさるの?」と私も、笑いながら尋ねると、

「もち屋は、もち屋と言いますからね」と、澄まして答えた。

それどういう意味なの、と私も少し驚いて聴いてみたら、

お寺の娘はお寺へお嫁入りするのが一ばんいいのよ、

一生食べるのに困らないし、と答えて、また私を驚かせた。

キン子さんは、全く無性格みたいで、それゆえ、女らしさで一ぱいだ。

 

 

ああ、汚い、汚い。女は、いやだ。

自分が女だけに、女の中にある不潔さが、よくわかって、

歯ぎしりするほど、厭だ。金魚をいじったあとの、

あのたまらない生臭さが、自分のからだ一ぱいにしみついているようで、

洗っても、洗っても、落ちないようで、

こうして一日一日、自分も雌の体臭を発散させるようになって行くのかと思えば、

また、思い当ることもあるので、いっそこのまま、少女のままで死にたくなる。

ふと、病気になりたく思う。うんと重い病気になって、

汗を滝のように流して細く痩せたら、私も、すっきり清浄になれるかも知れない。

生きている限りは、とてものがれられないことなのだろうか。

 

むかしの女は、奴隷とか、

自己を無視している虫けらとか、

人形とか、悪口言われているけれど、

いまの私なんかよりは、ずっとずっと、いい意味の女らしさがあって、

心の余裕もあったし、忍従をやかにさばいて行けるだけの叡智もあったし、

純粋の自己犠牲の美しさも知っていたし、

完全に無報酬の、奉仕のよろこびもわきまえていたのだ。

 

----------------------------------------------太宰治『女生徒』

 

 

主よ、あなたが見捨てなければならない私は、

いったい誰なのでしょうか? 

あなたから求められず、愛されず、私はあなたから捨てられてしまいました。

私はあなたを呼び求め、すがりつきますが、あなたは応えてくれません。

闇はあまりにも暗く、私は孤独です。求められず

見捨てられて、私は独りぼっちです。愛を求める心の寂しさに耐えられません。

 

 

 

 

--------------------------------------マザーテレサ『Come Be My Light』